二○○二年時点で、すでに中高年男性フリーター一○○万人時代に突入している。
現在は、さらにその数を増しているだろう。
このような動きを予見していたのが『二○○三年版・国民生活白書』(内閣府)だ。
一九九八年まではフリーターは二○代前半が多かったが、二○○一年には山が二○代後半に移っている。
「三○〜三四歳」という後期フリーター組も八○万人を数え、八九年当時の二・八倍になっていったん、フリーターになったら、離脱は困難だという現実は、彼らのそんな状況を、この本では、「流れる」「漂流する」という言葉で表現している。
もがき苦しんでいるのにどうにもならない不条理を、こうした言葉に託したほうが、よりリアルさを増すと思うからである。
では若年フリーターから流れていく中高年フリーターは今後、どれくらいの数に達するのだろうか。
それを試算したのがU総合研究所の調査レポート『増加する中高年フリーター』三○○五年)である。
若年時にフリーターだった人のうち、中高年になってもそのままという人の数を次の三つに分類し、数をはじいている(男女混合)。
二○○一年に四六万人だった三五歳以上の中高年フリーター(滞留者数)は、二○○六年に九三万人、二○二年三三万人、二○一六年一六九万人、二○二一年は二○五万人に達する。
フリーターの高齢化が、すでに始まっていたのだ(同白書の数字は男女混合)。
二○二○年ごろから定年退職を迎え、年金生活に入る中高年フリーターも登場する。
楽観シナリオ(若年フリーターが二○○一年から毎年五%ずつ減少すると仮定)二○○六年には九二一万人、二○二年二九万人、二○一六年一三六万人、二○二一年は一四八万人と、より若干少なめになる。
悲観シナリオ(若年フリーターが二○○一年から毎年五%ずつ増加すると仮定)二○○六年は九三万人、二○二年一四八万人、二○一六年二一七万人、二○二一年三○六万人にまで増える。
中高年フリーターの予備軍、若年フリーターの増加に歯止めがかからないことを前提にしているので、増加のテンポが急なのが、悲観シナリオの特徴である。
以上がU総合研究所の試算である。
三五歳以上の男性に関しては、途中から非正規雇用になった人も加えれば、一○○万人時代に入っていることは、すでに述べた。
三つのシナリオは、近い将来、どれをとっても、若いうちからずっとフリーターで流されていく漂流組が一○○万人台に、場合によっては三○○万人を超す時代が到来することを予見している。
同研究所は、中高年フリーターの増加が税収、社会保険料などの減少のほか、いつか中高年にも影響しかねないことを指摘している。
これは、こうしたシンクタンクの指摘を待つまでもなく、だれが考えてもわかることだ。
入りが少ないのだから、当然、出費にもブレーキがかかる。
人件費の圧縮に向けて非正社員を増やすことが、結局はみずからの首を絞めることになるという″やさしい経済学″に、企業はもっと目を向けるべきだろう。
いくつになっても自立した生活ができないとあっては、四○代、五○代のパラサイトシングルという姿も想像できる。
親の乏しい年金をあてにした暮らしなど、いいはずがない。
さらに注目すべき点は、少子化うんぬん以前に、晩婚化、非婚化が進行することである。
U総合研究所が慶雁大学教授のHさんらがおこなった研究結果をもとに描いた、未婚フリーターと未婚正社員の五年後の有配偶率だ。
たとえば「二五〜二九歳」の未婚男性フリーターの有配偶率は二八・二%を示している。
これは五年後には、四人に一人強は結婚しているという意味である。
ざっと眺めてみると、男性フリーターの未婚が顕著だ。
彼らは、ずっと気ままな生活を楽しみたいのか。
いや、結婚したくても、結婚できないのか。
こうした図やデータを見るにつけ、私はフリーター問題にも、固定的な性別役割分担の影、すなわちジェンダー問題が尾を引いていることを改めて思う。
「男は稼ぐ人」という位置づけが強いこの国では、男性が経済的弱者になってしまうと、評価が急落することがある。
女性にしても、しかりである。
すでに指摘してきたことだが、男性を通じて経済的な安定を図ろうという発想が刷り込まれてしまっている。
未婚男性フリーターの結婚をめぐる問題の背後には、そんな固定的な男女の役割分担観の影が浮か非正規雇用全体を見れば、現状では女性が大半を占めるという意味で、女性問題であると言い切れる。
だが中高年フリーター問題は、フリーターの定義に既婚女性が入る、入らないと言ったこと以前に、男性問題だと思う。
稼ぎ手という意味での男らしさ信仰が強ければ、中高年の男性フリーターはわが身をみじめに感じることもあるだろう。
すでに若者向けの雑誌などには、若者たちにバカにされる中高年フリーターの特集などを組むものも出始めている。
経済的のみならず、社会的な評価という面からも疎外される可能性が強いだけに、中高年フリーターは政治問題としても考える必要がある。
くどいようだが、「正社員になればいい」「男は稼ぎ手」という刷り込まれ方は、経済が順調な時代にあっては、男性に順風として作用する。
あまり努力などしなくても稼ぎが保証される分、「男らしさ」が維持できる。
「おとこ稼八、人、おんな家を守る人」という固定的な役割分担は、経済が順風満帆だった高度経済成長期に、しっかり形成されたものである。
その結果、「男らしい人」が量産され、同時にしっかりした稼ぎ手という意味での男らしさが、男性が持つべき理想的なアイデンティティとして確立される。
だが、経済的な逆風の時代になると、それは男性にとって、みぞれまじりの風として、重く冷たく頬にあたる。
男性の中高年フリーター問題は、背景に、そのような意味でのジェンダー問題をせおっている。
男の活券など捨ててしまって、パートナーである女性に「いっしょに家計を支えてほしい」と言えるような社会でないと、この問題は解決の糸口が見えてこないのも確かなのである。
これは単純な問題ではないのである。
流されて、いつか中高年本人の意に反して正社員からパートヘの切り替えを強制されたりしたときのストレスは、想像以上のものである。
四○代半ばのI夫がそうだった。
証券会社の営業マンとして二○年以上のキャリアがあるI夫は、ある日会社から、「規模縮小のため人を減らしたい。
ついては地方営業所への配転を飲んで欲しい。
あるいは一カ月間猶予を与えるから、その間に職探しをするように」という一肩たたきを受けた。
地方への配転といっても、仕事があるわけではない。
ただ机に座っているだけの閑職で、そのうち最低ランクの人事評価を受け、辞めざるをえなくなるということくらいは見抜現時点で中高年フリーターは、漂流組よりもリストラなどで「不利益配転」になった人、失職した人などが、やむなく非正社員としての仕事、立場に甘んじているケースがほとんどだ。
返事を引き延ばしにしていると、嫌がらせ、いじめが始まった。
仕事をイロハから教えてきた若い社員までが、侮蔑したような態度で接するようになった。
部長にいたっては「俺が職安にいっしょについていってやる。
さあ、行こう」という有り様だった。
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